KEY TO LIT 井上瑞稀 主演舞台『W3 ワンダースリー』出演者「手塚作品の世界を語る会」開催!
2025年6~7月に東京・兵庫にて上演される、舞台『W3 ワンダースリー』。
5月12日、上演へ向けてより作品への見識を高めるべく、手塚治虫の聖地、手塚プロダクションで「手塚世界と私 ~W3ワンダースリーの出演者が語る~」と題した、語る会が開催された。
出演者から、星真一役の井上瑞稀、星兄弟の母、F6号役の彩吹真央、ランプ役の成河、そして、演出・上演台本のウォーリー木下が出席。さらに、手塚プロダクション湯本裕幸氏も登場し、『W3』の誕生秘話や『W3』の手塚治虫氏の想いが語られた。
原作『W3』は、1965年~1966年まで「週刊少年サンデー」に連載されたSF漫画で、誕生してから今年で60周年を迎える名作。
原作者である手塚治虫氏は「ただ一つ。これだけは断じて殺されても翻せない主義がある。それは戦争はご免だということだ。だから反戦テーマだけは描き続けたい。」と語ったといわれてる。そしてこの『W3』も、戦争、温暖化、食糧危機、地震やねるぎー不足など、私たちが直面している自然と共存する上での多くの課題を抱えた地球の宇宙から観た姿を描き、宇宙からやってきたボッコ、ノッコ、プッコや、手塚漫画に欠くことのできないランプなど多彩な登場人物で構成され、反戦テーマをベースに描かれる。
そして、今回開かれた「手塚作品の世界を語る会」では、手塚治虫氏の作品や今回上演する『W3 ワンダースリー』について、深く掘り下げた話を聞くことができた。
ーーウォーリーさん、手塚先生の作品についていかがですか?
ウォーリー木下:6年前、まさにこの事務所で『W3』をやらないかというお話をさせていただきました。スピリッツを持った皆さんとかつこういった空間(手塚治虫作品)に囲まれながらアイデアを考えていると、「もしも手塚先生が舞台の演出をするなら」という頭でやろうと自分の中でふつふつと沸き起こりました。そこから『W3』をセリフが一切ない、演技とダンスと音楽、映像といった、まさにミックスメディア的なパフォーマンスとして6年前にやりました。1年間ものロングランでたくさんのお客さんに見ていただいてとても幸せだったんですが、「次にやるなら」という構想もその時に浮かんで、まさに今年の『W3 ワンダースリー』に繋がっています。
――井上さんは、世代的にも手塚先生の作品に今回初めて触れられたと思いますが、その時の思いをお聞かせください。
井上:手塚先生の作品はもちろん見たことがあって、『鉄腕アトム』や『ブラック・ジャック』も知ってましたが、ちゃんと読んだことがなく今回初めてしっかりと『W3』を読ませていただきました。1番最初に感じたことは、連載されていた当時のメッセージが、今も同じ状況で、同じ意味を持ってしまっていることがすごく悲しくなったのが最初の気持ちでした。僕は24歳なんですが、今まで手塚先生の作品に触れてこなかった層の方もきっと見に来てくださると思うので、そういった方たちにそのメッセージや意図がちゃんと伝わるように頑張れたらなと思っています。
――彩吹さんは、宝塚時代をあわせて手塚先生の作品は今回の『W3 ワンダースリー』で4作目ということですが、手塚先生の作品への思いなどをお聞かせください。
彩吹:宝塚歌劇の公演で手塚先生の作品が初めて上演されたのが、『ブラック・ジャック』と『火の鳥』でした。私は宝塚の80期生で、宝塚80周年記念の一環として上演されたんだと記憶しています。私の芸歴の始まりが手塚先生の作品だったことや、宝塚市立手塚治虫記念館が『ブラック・ジャック』の上演中に開館されたことなど、私の宝塚人生と同時並行していてとてもご縁を感じます。宝塚を辞めてからも舞台『アドルフに告ぐ』(2015)、そして今回の『W3 ワンダースリー』という壮大な作品でご縁をいただいたのも本当にありがたいことですし、ご縁を感じずにいられない、そんな気持ちでいっぱいです。
――成河さんは、手塚治虫さんの作品の印象や思い出はありますか?
成河:中学生の図書館に『火の鳥』が全巻置いてあって、その時に読んだことをとても覚えてます。思い返せば、非常に間口が広くてすごく難しいことを優しく楽しく考える機会をいただいたんだなと思います。世界の複雑さというものにきちんと興味が持てるような体験をさせてもらいました。大人になって「手塚治虫さん」とういう方を想像した時に、「反戦」ということが思い浮かびました。それは、ウォーリー木下さんが僕たちに向けてスピーチしていただいたことでもあるんですが、『W3』は「少年誌」「青年誌」といろんなものによって描き方が違うんですよね。いろんな角度から戦争というものをどうしたら日本で暮らす人たちに共有できるのか、議論できるのかということをずっとしてきた方なんだなと思っています。
――湯本さん、『W3』に関して手塚先生の誕生秘話などあればぜひ、お聞かせください。
湯本:『手塚治虫漫画全集』のあとがきに手塚自身も書いていますが、そこによると当時、手塚治虫が社長をやっていた虫プロダクションの若手のアニメーターたちで何か新しい作品をやろうということで作ったとあるんですね。ただ噂によると、手塚治虫は『W3』の前にやっていた、『ジャングル大帝』のアニメーション制作にどうやら外されたらしいんです。漫画も同時並行で描いているから進行が遅くなっちゃうので(笑)。今も存命のスタッフに聞いたんですが、外されて手塚治虫が悔しがっていたと。「じゃあ!」というで、一線級のアニメーターは『ジャングル大帝』に取られているので、若手のスタッフたちやるぞ!といって作ったという話もあります。
作品の内容的には、ちょうど東西冷戦厳しくなってくる頃なので、今と似た感じなのかな。手塚さんは戦争体験者ですので、戦争体験者の気持というのは我々はわからなくなっちゃってますよね。今のウクライナ戦争のことを若い人が10年、20年経っても絶対忘れないような気持ちが手塚治虫の中には死ぬまであったんでしょうね。そういうことを漫画であわらしていかなきゃいけないという思いはあったかと思います。
あと、手塚治虫らしいなと思うのは、『W3』はすごい壮大な前提で始まるじゃないですか。銀河連盟が地球を滅ぼすか滅ぼさないかという。すごい風呂敷を広げて始まるんだけど、入るとわりと小さい家庭の話を中心に広がっていく。この対比が手塚治虫の漫画らしいなという感じがします。
――ウォーリーさん、台本を作るうえで意識されたことは?
ウォーリー:戯曲に関して言うと「反戦」という、”どうやったらこの地球から戦争をなくせるのか”ということを最初から最後まで考えながら書きました。そのことを僕が考えるというよりは、登場人物たちみんながそれぞれの立場でそのことにぶつかり合うようなドラマになると思います。空想から始まって、見ている人がどんどん現実に入っていくような、そういう作品になるといいなと思っています、役者の体を借りて動き出してる人物たちが、その瞬間瞬間にこのテーマに対してどういう矢印をぶつけていくかということが1番大事だなと思いながら戯曲は書いたと思います。そのためにも稽古中はそれぞれの俳優さんが自分の役を深く掘っていく作業をしています。
最終的にはお客さんが最後、自分の答えを見つけるのか、もしくは星家とランプ家の2つの家のお話として楽しんでもらえたり考えてもらえたりするように、作品に没入的になるといいなと思っています。演出はとっても楽しくやっております。
―ウォーリー木下さんの演出についてはどうですか。
井上:個人的には2回目でほんと信頼しているので、ウォーリーさんの言うことを聞いて頑張ろう!という感じです。
――湯本さんは、できた台本を読まれた印象はいかがでしたか。
湯本:相変わらずシーエイティプロデュース(企画制作)さんのチームは漫画に忠実にやるなと(笑)。この前の『ジャングル大帝』の音楽劇もかなり漫画に忠実にされていて、もっといじっていいのになって(笑)。今回の『W3 ワンダースリー』も「変えます!」と言っていたんですが、基本的なところは漫画原作そのまんまやられているので、相変わらず本質を掴みながら今の人たちにわかってもらえるような本になってるなと思いました。
成河:聞いても良いですか?もっと変えてもいいのにと思われる理由はなんでしょう?
湯本:手塚が伝えたかった本質というのは絶対に変えちゃダメなんですが、その本質さえ崩さなければ、連載時の流行や言葉遣いといった表現は手塚自身も漫画を連載したあと単行本が出るときに変えているんですね。今の人が見てもわかるように変えていくことは大事で、本人もそういうことやっていたんです。
あと、手塚作品って強いので多少変えたところでブレないですよ(笑)。著名な劇作家の方が30年前に「僕らが多少ひねくって変えたつもりで戯曲を作っても、所詮手のひらの上で遊ばてれいるだけだ」って言われました(笑)。それくらい作品が強いんですね。だから変えるというのも、今の人が見てもわかるように変えるという意味です。
――ウォーリーさん、今回の演出法を聞かせていただいもよろしいでしょうか。
ウォーリー:今回はいわゆるオブジェクトシアターと呼ばれる、みんなでモノ使ってそれが何かに見えてくるという手法を取り入れています。その1つの方法としてのパペットやマイム(セリフではなく身体や表情で表現する演劇の形態)ですね。実際は生きてないんだけど人が動かすことで生きてくるみたいなことで、動物もパペットとして出てきて喋ったり歌ったりしますし、舞台上にあるいろんなものが動き出して演じ出すみたいな作品になっています。SFなので本当にやろうと思うと総予算5億円ぐらいいるので・・・
プロヂューサー:かなり近いです。
木下:すいません(笑)。じゃあ、5億円くらいかけた(笑)。パペットや映像、音楽、もちろんセリフやダンス、アクションといったいろんな手法が混ざりながら、でも本当は生きてないものが生きているように見えるということを一点に作品を作っているので、賑やかでガチャガチャした作品ではあるんですが見やすいんじゃないかなって勝手に思ってます。ぜひ、楽しみにしていただけたらと思います。
――井上さん、実際にパペットを見たときはどうでしたか?
井上:操演の方が動かしてくださっているのを見て、本当に生きているようで目線が合うだけで意思疎通が取れてるような感じがします。とっても愛らしいんですよ。瞬きとか目の動きで会話ができるような気がして、人形と対話するというのも初めての経験なんですけど、ほんとに感情がみえてすごい素敵だなと思っています。
木下:初めてなの?
井上:初めてです。
木下:あんまりないか(笑)
井上:あんまりないです(笑)。ちょうど衣装合わせの直後で・・すごい、すごいですね。なんて言ったらいいんだろう・・すごいです(笑)。めちゃくちゃ面白いですし、視覚的に見ててもきっと楽しめる方はたくさんいらっしゃるんじゃないかなっって感じました。
――井上さんは、ご自身の役のどんなところが魅力だと思いますか。
井上:僕自身が10代20代の方が1番共感しやすいところいるのかなという感じはすごくしてます。真一が辿り着いた結論に見てくれた同世代の方たちが共感してもらえたらなと思っています。
木下:あてがきですかってずっと言ってるよね(笑)
井上:そうなんです(笑)。真一の年齢も24歳と今回の上演ではなっているので、今の僕と同い年というのもあって共感できる部分が多かったりしますし、共感しやすいように書いてくださっている感じがするので、そこで見ている皆さんが最後自分にできることを見つけていただければ嬉しいなと思います。僕自身も「反戦」というものに対して一歩前に進めた気がして、そういった気持を持ってくださる方やそれについて考えるだけでも変わってくる気がするので、そういった方が増えてくれると嬉しいなと思いました。
――最後にお客様へメッセージをお願いします。
湯本:絶対に面白いものになると思います。ランプが漫画原作よりフィーチャーされていて、そういったフィーチャーされる人物が漫画原作とちょっと違いながらも全般的には漫画の本質を崩してない、良い本になっています。ラストシーンでいうとアニメと漫画は全然違うんです。そして今回の舞台も全然違うんですよ。3種類の『W3』のラストを見ることができてすごく楽しいですよね。もしも興味がある方がいたら電子書籍とアニメも配信してますのでその違いを見ていただけらと思います。ほんとに全部面白いです。楽しみです。
成河:僕は演劇の人間なので演劇贔屓でしかないですが、劇場は基本的には何の構えもなく気軽に来る場所なんですよね。もちろん、煌びやかでご褒美のようにいく場所という意味では大事なんですが、もっとフラットに来ていただくためにも僕たちも間口を広げていくべきだと思っています。どの層の人でも楽しめる、ワクワクドキドキ興奮できるような飽きさせない時間をものすごいメンバーで今作っているのでぜひ、気軽に劇場にお越しください。絶対に楽しんでいただくことできると思うので、ぜひいらしてください。
彩吹:この作品は、宇宙から見た地球の景色を見られるところが素晴らしいなと思っております。大きな宇宙から見る地球ってちっぽけで、そのちっぽけな地球で生きている、ひとつの家族や少年、青年、母親。いろんな人たちがそれぞれに悩みや苦しみがあるけれども、宇宙から見たらほんとにちっぽけなことなんだよ、そのちっぽけな人間たちが争うことって本当に愚かなことなんだよ。ということを改めて感じさせられる作品でもあるなと思っています。
気軽に劇場に来ていただいた時に、壮大な宇宙から見た自分たちが生きている地球がどれだけ素晴らしいかっていうことが改めてわかっていただけるかなと思います。よろしくお願いします。
井上:間違いなくこの作品を上演することで、何か一歩平和に近づくような気がしています。自分が生まれた頃にはもう戦争はなくてどこか他人事のように捉えてしまっていました。ざっくりと戦争は良くないよねという風に思っていましたが、具体的にどうしたらいいのかなんて分からないし、自分には止められないだろうという風に他人行儀に考えてたところを、この作品に出会って改めてしっかりと考えることができてすごくいい機会をいただいたなと思います。
そんな風に、思いあるけどどうしたらいいのかわからないことを考えることや想像することがすごく大切だなと感じたので、舞台を見た皆さんも、何か1つでも感じたことを想像するきっかけになっていただけたらすごく意味のあるステージになると思いますし、また1歩平和に近づいていくことができるのかなと思います。そんな風にいうと、すごく重いメッセージが伝わって来づらくなっちゃったら良くないですよね(笑)。でも間違いなく楽しんでいただける自信があるので、ぜひ皆さん遊びに来ていただけたら嬉しいです。
木下:『W3』の原作を何回も読んで受け取っている僕の印象って、コマの隅っこの方でやっているしょうもないこととか手塚さんならではのギャグや遊んでいる感じがふんだんにあって。それをセリフじゃなくて演出としてやろうと思った時に、みんなで隅の方でコチョコチョと細かいことやるみたいな。これが牽いてはきっと手塚先生の『W3』の原作の文体を演劇で作り出せるんじゃないかなと思ってやっているところがあります。隅から隅まで見てもらえれば、面白いところが見るたびに変わると思いますので、ぜひ何回も来てください。よろしくお願いいたします。
撮影:岡千里
日本の田舎にある小川村に住む星真一は漫画を描くことが好きな少年だった。2024年、宇宙にある銀河系のすぐれた生物の集まりである銀河連盟では、地球の存続について激しい口論が繰り広げられていた。多数決は同数で決着がつかず、銀河連盟は調査員を派遣して地球の様子を探らせることにした。
W3(ワンダースリー)と呼ばれる銀河パトロールのボッコ、プッコ、ノッコの三人は、地球人に怪しまれないように、それぞれウサギ、カモ、馬の姿に変身し、小川村に潜入し調査を開始する。そこで彼らは真一と出会い、行動をともにすることになる。
本公演は、6月7日~29日に東京・THEATER MILANO-Za、7月4日~6日に兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールにて上演される。
『W3 ワンダースリー 』
原作 手塚治虫 「W3(ワンダースリー)」
脚本・作詞 福田響志
演出・上演台本・作詞 ウォーリー木下
音楽監督・作曲・作詞 和田俊輔
出演 井上瑞稀 平間壮一/永田崇人 松田るか 相葉裕樹 彩吹真央 中村まこと/成河
冨永 竜 石井雅登 早川一矢 手代木花野 石井千賀 大倉杏菜
<人形操演>中村孝男(人形劇団ひとみ座) 高橋奈巳(人形劇団ひとみ座)
松本美里(人形劇団ひとみ座/東京公演) 奥洞 昇(人形劇団クラルテ/兵庫公演)
<スウィング>白山博基 森田有希
制作協力 手塚プロダクション
製作 フジテレビジョン ミックスゾーン キューブ シーエイティプロデュース
企画 シーエイティプロデュース
公式サイト https://w3-stage.com/
公式X @w3_stage
東京公演
公演日程 2025年6月7日(土)~29日(日)
会場 THEATER MILANO-Za
料金 S席 12,800円 A席 11,000円(全席指定・税込)※未就学児入場不可
主催 フジテレビジョン ミックスゾーン キューブ シーエイティプロデュース
お問合せ スペース 03-3234-9999(10:00~15:00 ※休業日を除く)
兵庫公演
公演日程 2025年7月4日(金)~6日(日)
会場 兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
料金 12,800円(全席指定・税込)※未就学児入場不可
主催 兵庫県 兵庫県立芸術文化センター
お問合せ 芸術文化センターオフィス 0798-68-0255 (10:00~17:00/月曜休み ※祝日の場合は翌日)