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「僕たちはユンジェとゴニの間にいる」初演に続いて再び脚本・演出を手掛ける板垣恭一さんインタビュー

2020年に本屋大賞〈翻訳小説部門〉第1位を受賞した、韓国発のベストセラー小説「アーモンド」。その舞台版が、2025年8月30日~9月14日 東京・シアタートラム、9月19日~9月21日 大阪・近鉄アート館にて上演される。
初演(2022年)はコロナ禍で半分以上の公演が中止になりながらも、読売演劇大賞・演出/振付部門で上半期ベスト5に選出された注目作だ。
感情をうまく感じることができない主人公ユンジェを演じるのは、A.B.C-Zの戸塚祥太。共演には、感情をむき出しに生きる少年・ゴニ役の崎山つばさ、さらに水夏希、松村優、平川結月、首藤康之、久世星佳といった実力派キャストが集結し、物語を多層的に彩る。

今回plus aでは、初演に続いて再び脚本・演出を手掛ける板垣恭一さんにインタビューを決行。
「僕たちはユンジェとゴニの間にいる」と話す板垣さんに、原作の魅力やディスカッションと試行錯誤の積み重ねによって深められていく稽古場での印象的なエピソードなどを聞いた。

――原作を読まれて舞台化したいと思われたのはどういったところだったのでしょうか。

面白いと思ったのは大きく2つあります。1つは、人はいろんなところでつまずいたりしながら成長していくんだっていう、人間の成長する段階を結果的に描く話になっているところです。普通の僕たちは、感情があるが故に誰かに教わらなくても自然と成長していくんだと思うんです。でもこの小説では、主人公の少年が感情を感じないことで、人間が大人になって行くために、どういう段階を踏むのかが描かれていて、そこが面白いと思ったんです。そしてもう1つは、僕たちは「感情を感じないように生きている」と思ったところです。

――「感情を感じないように」ですか。

例えば世界には今も絶えず戦争があって、戦場で暮らしている人や不本意に戦地に駆り出されている人たちのことを考えると、何も手につかなくなってしまうじゃないですか。だから、確信犯で僕たちはそういうことをあまり考えないように、つまり「感じない」ように生きてると思うんです。そういうことの比喩として僕はこの物語を読んだんですね。だけど、最終的に少年は感じることを選んでいく。結果的にそれは、いろんな経験を経て失っていたものが補われていくということだと思うんです。少年の「感じる」という言葉もありますが、その直前には「だから見て見ないふりをするような人に僕はなりたくない」ということをはっきり言ってるんですよね。僕はすべての物語は、例え話として受け取るべきものだと思っています。そして皆さんもきっと、自分の人生とどう関係しているのかを考えながら物語を見ているはずなんです。ユンジェは感情を感じない少年で、僕らは感情を感じる大人だけど、感じないように生きてるっていう意味では、ユンジェは僕ら自信の比喩として存在するのではないかと思ったんです。

――感情に振り回されたくないと思いながら生きているところは私自身もあります。

その対極にいるのが、ゴニなんです。ゴニは「感じすぎる人」。でも、1枚皮を剥げば、僕たちもそういう人間なんじゃないかなと思っていて。感情に振り回されたくないからこそ、あえて“感じないようにしている”んですよね。

――そうですね。

だから、僕たちはユンジェとゴニの間にいるんです。感じすぎてしまう人と感じない人という。僕が感じたことを、ただの個人的な感想としてじゃなく、物語として抽出して、劇場という共有の場で届けたらどんなことが起きるんだろう?そんなふうに思ったので、お芝居にしたいなと思ったんです。

――今、まさにお稽古真っ只中(8月中旬のインタビュー)ですが、キャストの方とのやり取りで印象的なことはありましたか。

みんな違うジャンルから集まってる人たちなので、それぞれ違うルールを持っているんです。いわば、異種格闘技みたいな感じですよね(笑)。僕は演出家として、その中でルールを宣言する人。「リングはここまでだから、ここからは出ないでください」といったようなことを、僕の言葉で説明して、それをどう受け取ってもらえるか、どう理解してもらえるかっていう“すり合わせ”が、しばらく続くんですね。やっていて楽しいなと思うのは、やっぱり皆さんの反応がビビットなことです。要するに、僕が何を言わんとしているのか――その理解度ですよね。1を聞いて10を知る、みたいなやり取りができるのは、クリエイター同士としてすごく楽しい瞬間です。

――その理解度が皆さんは早いと?

そうです。「こんなことをやりたいんだ」「こういうことですか?」みたいなことを皆さん返してくれるのが早いし、理解が深い。だから一緒にやり取りをしていて面白いなって思います。

――そんな皆さんと稽古を重ねていく中で、これうまくいったなという瞬間があれば教えてください。

それはたくさんあります。例えば、戸塚さんがユンジェのセリフを最初に喋ったときに、「あ、ユンジェだな」って思うし、崎山くんのゴニも、セリフがなくただ入ってきただけで「あ、ゴニだな」って思わせてくれる。そういう俳優としての力量をすごく感じます。それは全キャストの皆さんに共通していて、そういう瞬間をしっかりと捕まえてくださるし、自分からどんどん提出してくださる。そういった喜びが日々あるわけです。で、もっと喜びたいから(笑)、僕の方から「もっとこうなりませんか?」って言ってしまうんですよね。

――戸塚さんのお話も出てきましたが、「ユンジェという役は戸塚さんにぴったりだ」と、板垣さんが仰っていた一文を拝見したのですが、それはどういったところに感じられたのでしょうか?

戸塚さんって、なんだろう…フラットな人なんですよ。たぶん、それが最大の特徴だと思います。過去に一度ご一緒したことがあるんですが、尖がりすぎたり、ナイーブすぎたり、やんちゃすぎたり、元気が良すぎたり、元気が無さすぎたり…そういうのが全然ない。いつも“平熱”なんですよね。常に。それが彼のニュートラルポジションに見えるというか。今回のユンジェも、感情を「感じない」という意味で、ある種フラットじゃないですか。そこがリンクするなって思ったんです。彼(戸塚)は感情がないんじゃなくて、ちゃんと引いて、冷静に見ているんだと思います。トップアイドルの一人でありながら、そういうバランス感覚を持っている。かといって、なんでも言うことを聞く”いい子ちゃん”っていうわけでもない。いろんな意味で、すごくフラットでニュートラルな方だなと思います。

――再演と言いながらも、キャストが変わると作品もまた違うものになると思いますが、そのあたりいかがですか。

僕は、どんな作品でも、キャストが違えば、まったく違う芝居になると思ってるんです。僕の作り方的に、どうしてもそうなっちゃうんですよね。段取りではなく、「何を見せてもらいたいか」っていうところから作っていくので。それは、俳優によって捉え方も違うし、表現の仕方も全然違う。だからこそそこから何が生まれるのかを楽しみにしているし、それがさっき言った、“反応がビビットである”っていうことかなと思います。だから結果的には、まったく違うものになるんですよね。

――板垣さんのお気に入りのシーンや、もしくはそこに込めた意図や思いがあるシーンなどがあれば教えてください。

クライマックスで、ユンジェが心の中をワーっと喋り出す場面があるんですけど、そのとき戸塚さんには「客席に向かって喋ってください」と伝えています。それと同時に、本来その場にいないキャストの人たちにも、戸塚さんの背後に立って客席を見てほしいとお願いしています。客席目線というのは、演劇の中では“特殊技”になるんですけど、今回それを、あえてオープニングとクライマックスに使っています。「じゃあ、なんで客席を見るの?」っていう理由は、ユンジェが語っている内容と深く関わっていて…そこは、ぜひそれは劇場で確かめてください(笑)。

――それは楽しみです!そんなキャスト7人と板垣さん、スタッフさんで作り上げている稽古場の雰囲気を一言で表すと?

和気あいあい?“ホットでクール”にしときましょうか(笑)。

――なるほど。稽古中はホットだけど・・あれ?

逆です(笑)。休憩中がホットで、芝居をやっている時はみんなクール(笑)。みんなプロフェッショナルなので。

――ありがとうございます。聞いて良かったです(笑)。では最後に、今この時代にこの『アーモンド』という作品を上演する意味を板垣さん自身、どのように捉えていますか。

“感じないように生きている”ということは、すごく普遍的な問題だと思うんですね。それは、何でもかんでもビビットに感じるべきだっていうことじゃなく、そうしないと生きていけないから、感じないふりをしている。僕たちは。でも、だからといって、すべてに目をつぶってしまうのはどうなんだろうって思うんです。遠い国の戦争を止めることはできないかもしれないけど、目の前で転んだ人は助けられるかもしれない。そういう物語だと思うんですよ。ユンジェはすごく大きなことを言うんだけど、最終的に彼が取る行動は、すごくささやかなことなんですね。でも、それは大事なことなんじゃないかなって思っています。僕はどんな芝居を作っていても、結局はそういうささやかなことしか伝わらないじゃないかなと思っています。まとめとしては、“感じない”んじゃなく、“感じないようにしている”僕たち自身に、ほんのちょっとだけ思いを馳せていただけたら嬉しいなと思っています。

――お話を伺って観た方が本当にいろんなことを感じられる作品になるだろうなと思いました。すごく楽しみです。板垣さん、ありがとうございました!

ありがとうございました。

本公演は、東京公演を8月30日(土)~9月14日(日)シアタートラムにて、大阪公演を9月19日(金)~9月21日(日)近鉄アート館にて上演。8月29日(金)18:00より順次、東京公演の当日券購入用整理券を先着順で販売いたします。詳しくは、公式HPを参照ください(https://almond-stage.jp/schedule.html


公演概要
舞台 『アーモンド』
【原作】ソン・ウォンピョン
【翻訳】⽮島暁子(祥伝社刊)
【脚本・演出】板垣恭一
【出演】戸塚祥太 / 崎山つばさ 水 夏希 松村 優 平川結月 / 首藤康之 久世星佳
【演奏】桑原まこ(Key)、吉良 都(Vc)/川口静華(Vl) ※弦楽器は日替りでの演奏
【日程・会場】
<東京公演>2025年8月30日(土)~9月14日(日)シアタートラム
<大阪公演>2025年9月19日(金)~9月21日(日)近鉄アート館
【チケット料金】全席指定席:12,000円(税込)
【一般発売開始日】2025年8月3日(日)10:00
【お問い合わせ】
<東京公演> 公演事務局 https://supportform.jp/event (平日10:00~17:00)
※お問い合わせは24時間承っておりますがご対応は営業時間内とさせていただきます。
なお、内容によってはご回答までに少々お時間をいただく場合もございます。予めご了承いただけますようお願い申し上げます。
<大阪公演> キョードーインフォメーション:0570-200-888 (12:00~17:00 ※土日祝休み)
主催・企画・製作: エイベックス・ライヴ・クリエイティヴ/NHKエンタープライズ
【オフィシャルHP】https://almond-stage.jp/
【オフィシャルX(旧Twitter)】@almond_stage