• HOME
  • ニュース
  • 加藤和樹 2度目のジョン・レノン役「自然体でいるだけでビートルズとして成立しているというところまできた」舞台『BACKBEAT』インタビュー

加藤和樹 2度目のジョン・レノン役「自然体でいるだけでビートルズとして成立しているというところまできた」舞台『BACKBEAT』インタビュー

世界的ロックバンド・ビートルズの創成期を描いた舞台『BACKBEAT』が、2023年4月23日江戸川区総合文化センター 大ホールでのプレビュー公演を皮切りに、兵庫・熊本・大阪・東京で上演される。


結成当時は、5人だったビートルズの当時のベーシストであり、メジャーデビューを待たずして袂を分つことになるスチュアート・サトクリフとジョン・レノンの友情を中心に描いた本作は、2019年に日本初演。今回、戸塚祥太(A.B.C-Z)、加藤和樹、辰巳雄大(ふぉ〜ゆ〜)、JUON(FUZZY CONTROL)、上口耕平らが再び集結し、待望の再演が決定した。
本作の見どころは、何と言っても20を超える楽曲の生演奏。初期ビートルズを彷彿とさせる、荒削りながらも勢いのある演奏とロックを体現した歌声は必聴だ。
今回plus aでは、初演に続き、ジョン・レノンを演じる加藤にインタビューを敢行。再演への意気込みやビートルズへの想いなどを聞いた。

――再演が決まった時の心境を聞かせてください。

もちろん嬉しい気持ちはありましたが、同時に覚悟も必要でした。初演の時は、勢いで乗り越えられたところがありましたが、それから4年経ち、経験値は積んだけれどもフレッシュさはなくなっているのではないかと。期待と不安が入り混じっていました。

――初演時は、どんなところに苦労しましたか?

一番苦労したのは、歌です。この作品で描いている当時のジョンは、4人編成になってからの歌い方とは全く違うんです。当時の音源を聴くと、ジョンは1曲1曲に恐ろしいほど全力投球なんですよ。まるで色々な感情を全て歌に託し、喉を壊しにいっているかのような荒くれた歌い方をしているので、それをどう表現すればいいのかというところはすごく苦労しました。声帯も筋肉なので、そうした歌い方をしていると、筋肉がその歌い方で固まって壊れてしまうんです。なので、初演が終わった後は、しばらくはジョンの声から戻らなかったんです。でも、それを恐れて再演をやらないという選択肢は僕の中にはなかった。それくらいの覚悟で今回、臨んでいます。やはりジョンという人間を表現するのは容易ではないと感じています。

――そうすると、今回の再演でも1番の課題となるのは、やはり歌ですか?

そうですね。感情が乗っていると、あまり声は枯れないものなのですが、歌声にはどうしても無理に出してしまうところがあるので、喉を潰さないように気をつけなければいけないと思っています。

――お芝居という面では、世界中、誰もが知っている実在の人物を演じるというプレッシャーはあまりなかったですか?

プレッシャーしかなかったですよ(笑)。おっしゃるように、誰もが知っている人物ですから。ただ、多くの方がイメージするジョン・レノンは、デビュー後のマッシュルームヘアーのあのイメージだと思います。彼らがハンブルクで活動していた荒くれた時代は、そこまで知られていない。それならば、あまり気負わずにできるかもしれないとも思いました。もちろん、知っている方は知っているので熱量は惜しまずに表現したいと思っていましたが。

――役作りで普段と違うことはありましたか?

普段は、色々な資料を読んで、まず造形から作っていくのですが、それでも追いつかないくらい彼は特殊でした。なので、正直なところ、ジョン・レノンという役が掴めないままずっと稽古をしていて…自分としては一生懸命やっているつもりでしたが、稽古最終日に(演出の石丸)さち子さんから「最後まで見つけられなかったね」と言われて本当にショックでした。ジョンとしての表現をするにはどうしたらいいんだろうと悩み、舞台稽古に入ってから、衣裳を着て、周りのメンバーがビートルズになっていくのを見て、周りを頼ってみることにしたんです。きっと僕は「ジョン・レノンにならなくてはいけない」と頑張りすぎていたんだと思います。ジョンならこうするだろうとか、こうするのはジョンじゃないとか、考えすぎていた。ですが、そうではないんですよね。自分が自然体でいれば、周りのメンバーがジョン・レノンを表現してくれる。自分だけ頑張ってもダメなんだという当たり前のことに気づいて、そこからやっとジョンを見つけられたような気がします。自然体でいるだけでビートルズとして成立しているというところまできたと思うので、このメンバーで良かったと心底思いました。

――ビートルズを共に演じたメンバーとは、初演後も連絡を取り合っていたんですか?

連絡はずっと取り合ってましたよ。コロナ禍でも「どうしてる?」とお互いに連絡していましたし、JUONがオリジナル曲を作ってくれて、「いつかみんなでやりたい」と話したり…。お互いがそれぞれの活動をしながらも、心のどこかでずっと繋がっている存在だったので、今回、再演に向けてバンドリハーサルで会った時も、久しぶりという感じはしなかったです。どこか身内のような感覚でした。初演の時から、自分たちの関係性はビートルズのあの雰囲気と変わらないんです。

――では、再演にあたっては、どんなところをより深めていきたいと考えていますか?

久しぶりにスチュアート・サトクリフ役のとっつー(戸塚)に会った際、以前と少し雰囲気が変わっていたんです。今のとっつーがスチュ(スチュアート・サトクリフ)を演じたら、きっととんでもない魅力を放つんじゃないかと思ったので、それに負けないくらいのエネルギーを出したいですし、そうしたスチュに惹かれていくジョンの心の揺れ動きをよりリアルに表現していきたいと思います。

――初演を経て、ジョン・レノンに対する見方は変わりましたか?

彼にとってスチュアート・サトクリフという人物がどれだけ大切な存在であったのか、ジョンにどれだけ大きな影響を及ぼしていたのかということを、再認識しました。頭では理解していたつもりでしたが、実際に演じてみると、彼の音楽性の根底にあるものや人間性は、スチュがいたからこそなんだと実感しました。それから、演じたからこそ分かる彼らの苦しみや痛みが味わえた。それは、新たな発見でした。

――改めて、加藤さんから見たジョン・レノンはどんな人物ですか?

この作品で描かれているジョンは、まだ幼いところがあると思います。わがままで、絶対的な存在でありながらもどこか冷めている部分がある。それでいて、スチュの機嫌次第でジョンの機嫌も変わるという、2人で1つみたいなところがあった。ですが、そうした2人の関係はアストリッドが現れたことで変わっていきます。スチュが彼女に惹かれていき、音楽ではなく絵の才能に目覚めていく過程を見ながら、ジョンはスチュがいなくなることで自分が自分でなくなってしまうような怖さを抱えていたと思います。そうした心の揺れは表に出さないようにしているけれども、バレバレで、隠しきれていない(笑)。そこは幼いなと。きっと寂しがり屋なんでしょうね。

――なるほど。ところで、今作はビートルズのメンバーたちが夢を追いかけていく姿を描いていますが、その姿に共感するところはありますか?

夢を追いかける人たちの根本は変わらないんだなと思いました。やっぱり(本作で描かれている)彼らは若いですよね。夢がありながらも、たくさん寄り道をする。ドイツでは強制送還されてしまったり、痛い目を見ながら、大人になっていく。僕らとはやっていることは全然違いますが、何も知らない悪ガキが大志を抱いていたというのは理解できるところではありました。

――加藤さんは俳優以外にアーティスト活動もされていますが、加藤さんにとっての音楽やロックはどんな存在ですか?

僕にとって音楽は、自分を救ってくれたものです。若い時に出会っていなければ、きっと今のように歌っていなかったと思います。僕は、音楽を通して自分のメッセージを伝えることで、同じような思いを抱いている人が変わるきっかけになったらいいなという思いで、歌を歌っています。怒りや不平不満を世の中に対してぶつけるという歌ではないので、ロックとは違うのかもしれませんが…ただ、僕はロックは“生き様”だと思います。自分がどう生きて、どう死んでいきたいか。どうありたいか。それと自分に嘘をつかないで生きるということ。彼らがやっていたロックンロールと僕がやっている音楽はまた違うかもしれませんが、自分の存在証明としても続けていきたいです。

――では、青春の光と影を描いた本作にちなんで、加藤さんにとっての青春とは? 「青春だったな」と感じたのはいつ頃ですか?

いつと言われると、全ての時代がそうだったのかなと思います。携帯もない時代に、外に出て缶蹴りや鬼ごっこをやっていた子ども時代もある意味で青春です。初めて彼女ができた中学時代も青春でしたし、学生時代の辛い思い出も今思えば青春でした。なので、ひょっとしたら人生、ずっと青春なのかもしれませんね。今、こうして素敵な仲間と出会って一緒に芝居を作ることができているのも青春です。自分が青春だと思えば、それはいつであっても青春だと思うので、これからもどんな青春が待っているのか楽しみにしたいと思います。

――最後に、改めて作品の見どころを教えてください。

誰もが知っているビートルズという伝説のバンドの始まりの物語になります。再演ではありますが、我々は初演の気持ちで臨みたいと思います。『BACKBEAT』旋風が劇場を包み込む、そんな作品にしたいと思っています。

取材・文 / 嶋田真己
スタイリスト:ゴウダアツコ
ヘアメイク:国府田雅子[b.sun]、田坂貴恵、伊藤こず恵


公演概要
『BACKBEAT』
【作】イアン・ソフトリー、スティーヴン・ジェフリーズ
【翻訳・演出】石丸さち子
【音楽監督】森 大輔
【出演】
戸塚祥太(A.B.C-Z) 加藤和樹
辰巳雄大(ふぉ~ゆ~) JUON(FUZZY CONTROL) 上口耕平
愛加あゆ
鍛治直人 東山光明 西川大貴 加藤将 工藤広夢
尾藤イサオ
【日程・会場】
2023/4/23(日) 東京・江戸川区総合文化センター 大ホール
2023/4/28(金)~5/3(水・祝) 兵庫・兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
2023/5/6(土)・5/7(日) 熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)大ホール
2023/5/20(土)・5/21(日) 大阪・枚方市総合文化芸術センター 関西医大 大ホール
2023/5/24(水)~5/31(水) 東京・東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)